映画みたいで、映画じゃない日常を

先週、髪を切った。

とは言っても、縮毛矯正のかけ直しついでに毛先を3センチ切った程度で、パッと見は何も変わっていない。自分ですら鏡を見ても何が変わったのかいまいち分からないぐらいだ。

その翌日、恋人と会った。恋人は開口一番「なんか髪形変わった?」と言った。私は驚いた。正直、彼のことを「他人のちょっとした変化に全然気づかない人」だと思っていた。「なんで分かったん!?」みたいな顔で見てしまった。

彼にとっては髪形が他人の印象を形作るうえでの要素として大きいのかもしれない。実際、2年前からきている服を「あれ、その服最近買った?」とよく言ってくる。髪形>メイク>服みたいな順番なのだろうか。

何はともあれ、誰かが自分のポジティブな変化に気付いてくれるというのは嬉しいものだ。私も他人のちょっとした変化に気付ける細やかな人間でありたい。

 

その日は、ラーメンを食べたりその辺をうろついたりした。ラーメンは美味しい。店の外で順番を待っていた時に、メニューに載っている写真を見てラーメンに乗っかっているピンク色の物体がかまぼこかお麩かの議論をした。店内に入ってラーメンが運ばれてきた。かまぼこだった。トッピング無料のクーポンで勝ち得た味玉とデフォルトでついているゆで卵が並んでスープに浮いていた。

 

実家暮らしと社員寮暮らしで行き場がないのでその辺のビジネスホテルに入った。まだ空には太陽が昇っていて、少し古ぼけた窓からは青い空が覗いていた。見る気もないニュース番組をテレビで流しながら、ベッドに仰向けになって窓から見える空を眺める。そうしていると、まだ私たちが大学生で、下宿していた彼の部屋に遊びに行っていた頃のことを思い出した。お互いに講義やバイトがない午後、彼の部屋で適当に作ったパスタやチャーハンを食べて、ゲームをして、まだ明るい中で眠る。そんな日常が、南ア高懐かしかった。今思えば、映画みたいな日々だったなあと思う。これが本当に映画なら、この大学生の恋人たちは、就職してからお互いすれ違う日々が続いて終わりに向かうのかもしれないが、現実では今のところ幸いそういった展開にはなっていない。このまま映画とは違う現実を私たちは生きていくんだなあと、ほんのり煙草の匂いが染みついた部屋の中で思った。